泉美木蓮「会社ごっこ」感想


憧れのみで上京し、就職し、転職し、起業し、失敗した著者本人の経験をこれでもかと面白おかしく書き殴った傑作。
前半は「あー、この流れは失敗するんだろうなあ」というのがありありとわかるがどちらかといえば筆調は軽く、さらりとしている。
著者の状況がそのまま反映されているからだろう、周囲にいる「(著者自身もときに含まれるように見える)困った人たち」の愚かな行動を笑いながら見ているような感覚になる。
著者及び周囲には色々起こるが、まだまだ災害レベルとしては低いため人生に時として起こるしょうもない状況を描くエンターテインメントとして秀逸だと思う。
後半に進むにつれて感覚が著者と同調していくのに比例するかのように、物語の事態は深刻になっていく。
借金してでも会社を回さねばならない経営者としての苦しみやなんとか事態を打開せんがための七転八倒ぶりは突き放した視点で見ればこんなこともあるんだね、という一つのダメ企業のダメ経営者の例に過ぎない。
しかし前述のように著者に心理的に肩入れしてしまっている状況だと、正直この部分は読むのがきつい。
動悸・息切れ・目眩が恒常的に襲ってくるかのような読書感である。
字面を追うのがつらい本を読んだのは初めてだった。
そうこうしている間にも主人公の状況は激しく悪化していく。
そして全てが破綻し迎える結末は物語当初からずっとほのめかされていたもので、そこに意外性はない。
全ては終わったのだ。
あとに残ったのは本人と周囲に撒き散らしたとんでもない被害だけ。
そんな破滅が織り込み済みの話だったが、読了後はあっさりとした解放感が残った。

Daisuke & Kana

Japanese Professional Ballroom Dancer

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