「東大卒なのになんでダンスのプロなんかになっちゃったの?(仮)」vol.2
ダンサーデビュー(ただしヒップホップで)
こうして社交ダンスとの運命の出会いを全く意識せずに通り過ぎた僕はその後順調にゲーム・アニメなど社交ダンスとは全く縁のないオタク趣味に血道を挙げることになる。
このまま行けば末はニートか廃人か、気が付けばそんな未来がうっすら透けて見える高校生になっていた。
そんな風にダンスから、というか普通の人から相当遠い存在になっていた頃、再びダンスと縁ができることになった。
しかも今度は見る側でなく踊る側として。
高校入学後の僕の状況だが、友人はオタク趣味のある奴かクラスの誰とでも分け隔てなく話す優等生タイプぐらいしかいなかった。
体育の教育実習に来た先生に「運動嫌いなんですよね」と質問だかいちゃもんだかよくわからない発言をしてクラスメートに鼻つまみ者扱いされたりして、着々と「変な人」ポジションを不動のものとしつつあった。
当然「みんなでがんばろう」みたいなノリとも全く無縁だった。
そんな中、文化祭で僕のクラスが演劇的な出し物をすることになった。
「勝手にやってくれ」
これがその時の僕の偽らざる文化祭およびクラスの出し物への気持ちであった。
出し物の企画を作成したのはクラスのNさんという子で、ヒップホップダンスをしていてクラスの中ではちょいワル女子という感じの立ち位置。
僕とは全く接点がなく、プリントの受け渡しなど本当に事務的な用事がなければ話すことはないだろうしそもそもそんな用事は仲のいい女子がやるので本当に同じクラスということ以外何の共通点もなかった。
そんなNさんが突如僕に声をかけてきた。
「小野くん、文化祭で踊ってくれない?」と。
クラスの中で浮いた存在によくあることとして自意識が分不相応に肥大していた僕は、嫌がるそぶりを見せつつも引き受けた。
内心ではけっこう嬉しかったのだが。
ヒップホップの練習は結構楽しく、当日も振りを間違えたりしたもののなんとか無事にやり通した。
Nさんがプロデュースした出し物の台本や音楽はよく練られていて、見た人からの評判も良かった。
今から考えれば、これが僕の人生におけるダンサーデビューということになる。
社交ダンスではなくヒップホップ、会場もダンスフロアではなく高校の体育館のステージだったけれど。
とにもかくにも、この経験を機にオタクの高校生は「ダンスってわりと楽しい」と気づいたのだった。
このことが大学入学後の部活動選び、ひいてはその後の僕の人生に大きな影響を与えることになるとは、僕自身はもちろんNさんだって頭の中をかすめもしなかっただろう。
彼女がなぜ僕に声をかけてくれたのかは、今もって謎である。
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